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His Recoveries

Three Recoveries

三つの回復について

His Recoveries は、複数形のブランドです。回復は一回では終わらない、という意味です。

身体の処置で終わる回復が、第一幕。所作で整え続ける回復が、第二幕。他者と並び直す回復が、第三幕。

I

Recovery of the Body

身体の回復── 距離の年から、処置の決断まで

身体に問題があるとき、その問題は、いつも他人より少し先に自分が気づきます。 教室の机に滲んだ汗、夏服の袖の重さ、距離を取られているのか、 それとも気のせいなのかを、毎日何度も計算した時期がありました。

どこかで決断します。 外用薬を試し、ボトックスを始め、皮膚科に通い、最終的に手術台に上がる。 それぞれの選択は、孤独で、長く、安くはありません。 ただ、それでも、終わりはあります。

身体の回復は、医療が終わらせてくれる回復です。
これが、His Recoveries の第一幕です。

記録の中の多くは、この第一幕の時間を、過去形で書いています。 乗り越えた、と言わずに、通過した、と書きます。 その距離感が、第二幕への入口を残してくれるからです。

Interlude

通過した時間

His Recoveries の運営者が、ブランドを始める前に過ごした年。 第一幕から第二幕へ移っていく、十数年の輪郭です。

  1. 中学・高校

    12–18

    手のひらと脇の汗が、教室の机に滲んだ。プリントが波打つたびに、自分の身体が他人より騒がしいことを知った。

    領域:汗とにおい

  2. 20代前半

    20–24

    皮膚科で多汗症の外用治療を始めた。並行して脇のボトックスを定期で打ち続けた。夏の予定の組み方が、少しずつ変わった。

    領域:汗とにおい

  3. 20代中盤

    24–27

    ニキビ跡の美容皮膚科に通い始めた。鏡の前で過ごす時間が長く、外を歩く時間が短かった季節。

    領域:肌と跡 / 顔の印象

  4. 20代後半

    27–29

    ワキガの手術を受けた。傷が落ち着くまでの数ヶ月のあいだに、身体の問題と自意識の問題は別物だと、初めて気づいた。

    領域:汗とにおい / 心と余白

  5. 30代の入口

    30–

    身体は静かになった。残った癖と整え方を、毎晩の所作として組み直し始めた。書くことを始めた。

    領域:心と余白 / Practice

  6. 現在

    His Recoveries を立ち上げ、自分の通過した時間を低い声で記録している。

    領域:すべて

実名・実年齢・顔は意図的に非公開で運営しています。 理由は Founder's Noteに。

II

Recovery of Practice

所作の回復── 処置のあと、所作で整える時代

身体の処置を終えても、夜の三十分が重いままだった、という人がいます。 自意識は、傷より長く残るからです。
その残ったぶんを、日々の動作で整えていくのが、第二幕です。

湯から上がり、一杯の水を飲み、部屋着に袖を通す。 一つひとつの動作を決めておくと、 自分の輪郭が、その日のうちに静かに引き直されていきます。

所作の回復は、ブランドが提案できる回復です。
His Recoveries の Shelf は、この幕のための道具を並べた棚です。

効くとは言いません。 ただ、それに袖を通すあいだ、自分との約束を一つ守れる ── その距離感を、棚として並べています。

III

Recovery of the Self

自己の回復── 並び直すこと、書いて返ること、便りを受け取ること

第三幕は、ずっと未完です。 身体が整い、所作が決まったあとも、 他者の視線に過敏な癖や、夜の長さは、長く残ります。

その残りを、誰かと並び直すことで、少しずつ薄めていく。 書くこと、読むこと、便りを送ること、誰かの記録を受け取ること。
それらが、第三幕の所作です。

自己の回復は、決して完了しません。
His Recoveries は、その未完を、未完のまま並べておくための場所です。

ここに集まる読者は、答えではなく、距離を探しています。 処方せず、励まさず、ただ書いて、ただ読んで、ときどき、便りを送る。 その地味な営みが、たぶん、回復の第三幕です。

Coda

回復は、強くなることではありません。戻り方を、いくつ持てるかです。

Recovery is not about becoming stronger.
It is about the number of ways you have to come back.

His Recoveries