書き手は 20代後半でワキガの手術を受けた。半年が経って、変わったことを置いておく。
夏のクローゼットの前で、グレーのシャツを手に取った朝があった。
何年も避けてきた色だった。 脇のジミが目立つから、ではなく、それを「目立つ」と感じる自分の視線が嫌で、 ずっと、紺と黒の中で選んでいた。
選んだとき、特別な感情はなかった。 「今日はこれにしようか」と、淡々と決めた。 それが、何かが書き換わった、ということなのかもしれない。
手術の直後ではなかった。
施術の翌日に、距離感が変わったわけではない。 不安は、しばらく残った。「変わったはず」と頭で思っても、 身体の側がそれを信じるまでには、時間がかかった。
ジムで、誰かが隣のロッカーを使ったとき、無意識に距離を取らなくなったのは、 たぶん 3ヶ月目あたりだった。
電車の吊り革に、両手を上げて握れたのは、4ヶ月目の梅雨明け。
そして、グレーのシャツを、シャツの色として選べたのは、半年目の朝。
変わらなかったことも、書いておく。
「におっていないか」と、無意識に確認する癖は、半年経ってもまだ残っている。 これは身体ではなく、長く染み込んだ自意識の方に住んでいる癖だと思う。
知っているからといって、消えるものではない。 ただ、確認する回数が、月に何度かに減ってきた、というのが、本当のところ。
施術が、自意識を消したわけではない。 ただ、自意識が居続ける場所を、少しずつ別の場所に動かしてくれた、という感じが近い。
半年というのは、シャツの色を、自分の好みで選び直せるようになるまでの時間だった。
※ 治療の適応・副反応・費用は人によって異なります。個別の判断は医療機関にご相談ください。 本記録は当事者の観察であり、医療行為・診断・受診勧奨を行うものではありません。