書こうと決めるまでに、時間がかかった。
ここに何かを書きはじめるよりずっと前から、僕は記録を残したいと思っていた。けれど、その「書く」という動作にたどり着くまでには、何度も逡巡を繰り返している。
書けば、過去の自分を晒すことになる。書かなければ、誰かが同じ場所で同じように立ち止まっている時間が、たぶん少しだけ長くなる。
その天秤の傾きが、ある朝、ほんの少し動いた。
このメディアは、解決策を売る場所ではない。 治した話ではなく、まだ整えている途中の話。完了した過去としてではなく、続いている現在として、身体と自意識のあいだに残った景色を、低い声で残していく。
扱う領域は四つ。多汗症、ニキビとその跡、ワキガ、そして顔の自信のなさ。 いずれも、当事者にとっては日常を静かに侵食する種類の悩みだった。医療で介入できるものもあれば、できないものもあった。
たぶん、僕の話は誰の参考にもならない。順番も、合うものも、人によって違うから。それでも、書いておこうと思った。情報としてではなく、誰かが歩いた道として。
書き手は、かつて当事者だった人間だ。 今は、半歩だけ先にいる。振り返ると、まだそこにいる、という程度の距離。
教える人にはなりたくない。先生にも、啓発家にもならない。 ただ、後ろから歩いてくる人の半歩先にだけ届けばいい。それ以上届くことを、僕は期待していない。
このサイトには、シェアボタンも、いいねも、コメント欄もない。ポップアップも、退出を引き止める通知も置かない。
読んで、そっと閉じてもらえれば、それで足りる。 気が向いたときに、また開いてもらえれば、もっと足りる。
ここに置いていく言葉が、誰かの夜を、ほんの少しだけ穏やかにできれば。そのために、僕は書く。